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①.なぜ、今、自動車業界の設備投資は「様子見」なのか?
今、製造業の中で最も市場の大きい「自動車業界」の中で、いわゆる設備投資が“様子見”ともいえる状態になっています。
この背景として、私は100年前の自動車業界にも共通する“流れ”を感じます。
その“流れ”とは、今から100年ほど前の1900年~1910年の10年間というのは、実は、自動車が現在の「ガソリン」の「内燃機関」がスタンダートになることに時間を要した10年間でした。
実は1900年初頭においては、自動車はガソリンの内燃機関だけではなく、
a)灯油でお湯を沸かして動力にする蒸気機関
b)電池で車を走らせる電気自動車
c)アルコール(エタノール)による内燃機関
といった、各種動力源が本命を巡って競っている状態でした。
ちなみに、自動車として世界で初めて時速100kmを超えたのは、電気自動車でした。当時、ポルシェの創業者として有名なフェルデナント・ポルシェ博士は、エンジンを発電用として車に搭載した電気自動車という、まさに世界で初めてのハイブリッド車を実用化したりしていました。
要は内燃機関だとクラッチや変速装置が必要ですが、電池とモーターであれば電流制御でスピードコントロールができるので必要ありません。ですから当時も電気自動車も本命の1つだったのです。
ところが最終的に、世の中でスタンダードになったのは、ガソリンによる内燃機関でした。なぜ、ガソリンによる内燃機関が自動車の本命になったのかは諸説ありますが、その当時は石油の主な使い道というのは照明用、あるいは暖房用であり、主として灯油でした。
ところが、灯油を生成する過程で「ガソリン」や「ナフサ」が発生します。
この当時、「ガソリン」は使い道のない、かつ爆発する危険性の高い“危険物”として、石油会社は川に流して捨てていたそうです。もし、ガソリンを燃料とする内燃機関で走る自動車が世の中の主流となると、それまでは廃棄物として捨てていたガソリンが、いちやく燃料として高く売れる商品に代わります。
そこで当時、米国の石油業界を牛耳っていたスタンダードオイル(=ロックフェラー家)と、フォードが手を組み、ガソリンを燃料とする自動車の大量生産を決めたといいます。
有名なT型フォードの量産がスタートしたのは、1908年のことだといいます。
この様に自動車が移動手段の中心、ということになると「高速道路(ハイウェイ)」が必要です。
そこで当時のベクテルといった大手ゼネコンも、石油資本や自動車産業と手を組み、全米に高速道路網をはりめぐらし、莫大な仕事を手にすることになります。
さらに当時の化学メーカー大手のデュポンも、自動車産業に目をつけます。なぜなら自動車にはシートやインパネといった、膨大な量の樹脂(ケミカル)が必要とされるからです。こうした樹脂の原料も石油です。
1920年代当時、米国には200社を超える自動車メーカーがありましたが、特に1929年以降の大恐慌をきっかけにデュポンが出資していたGM(ゼネラル・モータース)が全米の主要な自動車会社を買収し、現在のビッグ3といわれる体制ができあがりました。
この様に、現在の自動車産業というのは、自動車メーカーだけでなく、石油資本、大手ゼネコン、大手化学会社と政治が結びつき、その結果、ガソリンと内燃機関を主体とする現在の自動車産業が生まれたのです。
ちなみに、前述 c)アルコール(エタノール)による内燃機関 は、ガソリンによる内燃機関よりもススがでにくく、クリーンであることに加え、アルコールであれば穀物を原料として自宅でも蒸留することができるので、農家のトラクター用として重宝された、といいます。
ところが1920年から施行された「禁酒法」により、あらゆるアルコールの製造そのものが禁止されます。この禁酒法の施行もあって、燃料としてのガソリンの普及がさらに加速したともいわれています。
②.次の自動車業界の本命が決まるまでに10年かかる?
現在の2020年~2030年というのも、まさに100年前の「自動車の本命を競う争い(?)」に近いものがあるのではないかと私は思います。現在は、EV、水素自動車、内燃機関+EVのハイブリッド車という、大きく3つの選択肢があります。
現状において、EVの最大の弱点は「バッテリーの原価が高すぎる」ことによって、自動車メーカーはEVを売れば売るほど赤字の状態、といわれています。
自動車メーカーでEVを売ることによって利益を得ているのは、現時点ではテスラ1社のみといわれています。もっというとテスラですら、メーカーとしてEVで利益を上げているというよりも、カーボンクレジット(排出権取引)という市場ルールの中で、他自動車メーカーから受け取る排出権によって利益をかさ上げしているのが現状で、そういう意味でいくと、実はEVというのは未知数の要素も多いのです。
実際、全自動車の生産台数に占めるEVの割合は、いまだに3%を超えていません。
こうした課題を解決すべく、欧州や米国では多額の投資を行い、リチウムイオン電池の原料となるリチウムの開発・精製や、安価なバッテリー開発を行っています。
ただし前述の通り、実際のところは本当にEVが本命なのかどうか、本命だったとしてどの様なやり方が本命となるのか、が、まだ見通せていない結果が、現在の設備投資への足踏みにつながっているのではないでしょうか。
だと、すると、この状況はまだしばらく続くと考えておく必要があるでしょう。
※船井総研「製造業」経営レポートより